3G/LTE時代の覇者Qualcommを打ち破るのはIntelかそれとも中国メーカーか?(後篇)

現在のチャンピオンQualcommの王座が安泰かといえばそうでもないかもねという話。

Qualcommの独占が続いている3G/LTE機能だが、Qualcommを追撃する会社がある。前篇にも名前が挙がったHuaweiの他, Braodcomn, Marvell等メジャーなチップ会社勢とそしてIntelだ。

LTEチップ市場の動向:LTEセルラー端末・タブレット・関連ICベンダーの市場分析
http://www.gii.co.jp/report/fc301386-lte-chip-market-trends.html

とはいえ、現状はこんな感じ。

Digitimes Research: Qualcomm far ahead of Marvell and MediaTek in China LTE market
http://www.digitimes.com/news/a20140619VL200.html

Broadcom could sell cellular baseband unit, but buyers are not apparent
http://www.fiercewireless.com/story/broadcom-could-sell-cellular-baseband-unit-buyers-are-not-apparent/2014-06-02

Qualcommツエーという状況ではあるのだが、Qualcommに死角がないかといえばそんなことは無い。具体的にはQualcommは低価格戦略に難ありといわれている。

米クアルコムの10-12月売上高見通し、市場予想を下回る
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MVV2IN6K50Z101.html

低価格LTEチップで、Qualcommに挑む新興企業
http://eetimes.jp/ee/articles/1306/28/news063.html

歴史に学ぶならば、こういったチップの類は中台勢の低価格攻勢により、創業ベンダーが追いやられるというのが定石だ。LANにおける3Com、Wi-FiにおけるLucent/Intersilと同様に3Gの創業ベンダーであるQualcommも然るべきタイミングで後進に道を譲るはずで、そのタイミングがいつなのか、相手は誰なのか、が注目すべきポイントだ。この世代交代という話題で頭角を現しつつあるのはMediatekだと言われいる。Mediatekは台湾のベンダーだ。

そして、ここでやっと出てくるのがIntelだ。Intelもやっと自前(といっても買収した会社のIPだが)のLTEモデムを投入する。

IntelというのはCPU/チップセットのオマケとして通信機器をつけて売る会社であって、通信機器そのものは性能が良いわけでも、設計が良いわけでもないのだが、こいつらはとにかく金がある、金があり、主製品であるCPUを売るためなら何でもやるという点において非常に手ごわい会社だ。

Intelがスマホ/タブレット向けロードマップを急加速
~2014年後半にモデム統合エントリーSoC「SoFIA」を外部製造で投入へ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/ubiq/20131123_624814.html

対して、QualcommのSoCはどちらかといえば、3G/LTEモデムのオマケにARMチップがついてくる構成である。こういった状況においてQualcommは今後どのような戦略を取るべきかというのは非常に難しいところだと思う。

Qualcommの明るい未来予想

  1. QRDをはじめとして設計が容易なQualcomm製品は既にSoCの定番となっている。この状況がすぐに変わるとは考えにくい

スマホは誰でも作れる モバイル時代の「盟主」、次の一手
http://www.nikkei.com/news/print-article/?R_FLG=0&bf=0&ng=DGXNASFK18012_Y2A211C1000000&uah=DF170520127708

Qualcommの暗い未来予想

  1. 新興国向けではLTEは重視されない。新興国向け低価格製品は付加価値よりもコスト。他社に持って行かれることは必至
  2. Android/Windows SoC製品に満を持してIntelが参入
  3. Androidスマホトップベンダーである、Samsung, Sonyの業績に陰りあり

最近良くある全方位戦略をとって自壊という線も大いにある。高級路線、新興国路線等ラインナップを広げすぎることが原因で全体の利益が落ちるという線だ。最近だと、SamsungやSonyのスマホの赤字の原因がこれだと思われる。リソースや管理には限界があるので、業績が好調であったとしても全方位戦略は通常長続きしない。

一方で、追撃する方は自分の得意分野に集中するので戦略は取りやすい。Mediatek等中台系メーカーはは低~中価格路線で、3G/LTEというよりは3Gのみ、Intelの場合は、Windowsを搭載した、2in1/タブレットが得意分野であり、各々特定エリアに特化してQualcommに追従するはずだが、それを受けるQualcommは敵が多くかなりしんどい。

個人的な予想としては、Qualcomm一強瓦解のキーは低価格路線への適応にある。低価格戦略を拡大すると高付加価値製品との価格差を正当化する必要があるのだが、これがちゃんとできた会社はいまだかつてない。大抵は安い方に流れ部品の値段は徐々に下がる。だからと言って低価格路線をやらないという選択肢もないので、市場が低価格に向かった時点で、Qualcommの成長は大きな曲がり角を迎えたわけだ。

歴史から学ぶとすれば、WintelのNetbook戦略が挙げられる。WintelがNetbookを止めたのは、Netbook路線を継続すると、然るべきタイミングで低価格製品だけで全世界をカバーできる性能を達成できてしまう事が容易に予想されたからだ。

元々NetbookはIntel以外のCPUを使った$100 PCをルーツに持つが、この市場が拡大しコントロールできなくなることを懸念したIntelが、Microsoftと結託して、Netbookを作り、競合を排除し、市場をIntelがコントロール可能な状態にしてから、意図的に潰したというのが私の理解だ。Microsoft, Intel共に高利益を維持するための大がかりな仕掛けだった。

WintelはWindows 8において1024×600をサポートしないという名目でNetbookを殺し、Intelを意図的に外した形で低価格路線にWindows RTをあてがったわけだが、そのWindows RTが失敗したため、そこに大きな穴が開いた。そこをiPadや、Androidデバイスに取られた。

Wintelは自分がやらかした事を比較的良く知っている。Netbookを継続していればここまで悪い状況にはならなかっただろうという反省において、Netbook同様、Atomを使ったタブレットに無料のWindows 8.1を入れて提供しているのが2014年の状況だ。

こう見た場合、低価格Windows 8.1タブレットはNebook戦略の焼き直しと言っていいだろう。

ただ、タブレットのマーケット自体が微妙な状況において、この戦略が機能したとしても全体への影響は限定的だと思われる。主戦場はスマホ市場だ。そこで次に来るのが、Wintelという形を維持したままの「スマホ」戦略はどう来るか?なのだが、2014年の段階ではまだ形になっていない。

ここで私がMicrosoftに言いたいことは、「Windows Phone 8.1ってホントにSnapdragon SoC専用OSでいいんだっけ?当然然るべきタイミングになったらIntelアーキテクチャに鞍替えした方が戦略的に良くね?SoFIA LTE使うよね?IntelにSnapdragonに匹敵するプロセッサを作らせて、今まで通りWintelでいいんじゃね?」だ。

Windows Phone 8.1がSnapdragon専用OSのまま、Androidを追い越すということは、Androidデバイス以上にSnapdragonを大量に買い、Qualcommと密接な関係を築く事を意味するが、

  1. 今現在、Qualcommと密接な関係にあるSamsungやSonyがそれを許すのか(この2社はPCを捨ててスマホを選んだ会社だ)?
  2. 今現在、Microsoftと密接な関係にあるIntelがこの状況を許すのか?
  3. 今後のMSとQualcommの関係って、Qualcommは二股かけさせた上で、そのうち略奪するって事か?Qualcommはそれでいいんだっけ?
  4. Microsoftの方も結局ARM/x86二股かけるってこと?過去何度か(Windows NTとかPocket PCとか最近じゃWindows RTとか)試したけど、一度もうまくいったことないぞ?
  5. Snapdragon大量生産によるメリットはAndroidデバイスも享受する事になり、WIndows Phoneが安くなれば、Androidも安くなるだろ。こんなことしてても追いつかないんじゃないの?

そんなMicrosoftに都合のいい展開にすんなり行くんかいな?と突っ込みどころが多い。

そこで、上記(Qualcomm SoCのままWindows Phoneを拡販する)はどうも無理筋だろうということで、Qualcommのシェアが落ちる可能性の一つとして、

* WintelのスマホがAndroidとQualcommを駆逐する

という線を考えた。今の所、絵に描いた餅にもなっていないが、ありえない筋ではないというか、むしろこれが王道だろう。加えて、

* 他社製低価格SoCのシェアが伸び、相対的にQualcommの取り分が減る

は、必ず起きることだろう。Qualcomm帝国も決して安泰じゃない。

個人的な予想としては、後で振り返ると2013~2015年辺りがQualcomm SoCビジネスののピークだったと言われるようになるんじゃないかと思う。